人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)とは?徹底解説

03/20/2024

人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)とは?

本記事では、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)の定義、5つの構成要素、導入事例、RLHFに関するよくある質問について解説していきます。

RLHFの定義

人間のフィードバックによる強化学習(RLHF:Reinforcement Learning from Human Feedback)は、人間の評価をもとに大規模言語モデルの出力を最適化させる強化学習の手法です。

人間の価値観、意見、好み、フィードバックを報酬信号として取り入れ、大規模言語モデルをファインチューニング(Fine-tuning)することで、より人間らしく自然な出力を実現することを目的としています。

この手法は、特に自然言語処理(NLP)において注目されており、大規模言語モデルのパフォーマンス向上に大きく貢献しています。

従来の強化学習とRLHFの違い

従来の強化学習(Reinforcement Learning)は、エージェントが環境と相互作用しながら、自律的な試行錯誤を通じて報酬を最大化する最適な行動戦略を学習する仕組みです。

しかし、現実のタスクでは、「どのような出力が最適か」を定量的に定義することが困難なケースも多く存在します。こうした課題に対応するために導入されたのが、人間の評価(フィードバック)を活用する強化学習の手法、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)です。

RLHFでは、報酬の一部を人間が与えることで、モデルは人間の価値観、意見、好み、意図に沿った出力を学習するようになります。

例えば、「出力Aの方が出力Bより自然で好ましい」と人間がフィードバックを与えると、その判断がモデルの報酬信号として利用され、出力品質の向上につながります。

RLHFは、従来の強化学習に人間の主観的な評価(フィードバック)を組み合わせることにより、言語モデルが高品質かつ多様性のある出力を生成するように導きます。さらに、多様なデータセットを使用することで、さまざまな視点や文脈に対応することができ、より汎用性の高い言語モデルを構築することが可能になります。

RLHFの5つの構成要素

人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)の基本的な流れを解説します。主に以下の5つのステップで構成されています。

1)事前学習(Pretraining)

人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)でAIアプリケーションを開発する際の第一歩は、事前学習済みのモデル(Pre-trained Model)を活用することです。オープンソースの事前学習済みのモデルを使用することも、独自に構築することも可能です。

既存の事前学習済みモデルを活用する方法は、非常に効率的かつ現実的です。このアプローチにより、特定の用途に応じた適切な入力とそれに対する出力のペアを用意し、モデルを効果的にファインチューニングすることができます。

2)教師ありファインチューニング

教師ありファインチューニング(Supervised Fine-tuning)とは、大規模言語モデルを活用したAIアプリケーションの開発において、柔軟性と応用力を高めるための重要なプロセスです。事前学習済みのモデルに対して、具体的な事例を含むデータを用いて再学習させることで、目的に合った出力ができるようモデルを調整(ファインチューニング)します。

また、ファインチューニングは、モデルの出力品質の向上だけでなく、バイアスの軽減や出力の一貫性確保にもつながり、信頼性の高いAIシステムの構築が可能になります。

3)報酬モデルの学習

報酬モデルの学習とは、生成モデルが生成した出力に対し、人間が「どの応答がより適切か」を評価・ランク付けを行い、その評価データをもとに報酬モデルをトレーニングするプロセスです。

報酬モデルは生成モデルとは別に学習され、報酬モデルが付けたスコアをフィードバックとして活用し、生成モデルの出力を最適化するためにファインチューニングを行います。

このようにスコアを通じて学習させることで、生成モデルは報酬モデルから高評価を得られるような出力を生み出す能力を高めていきます。明確なルールでは定義しにくいような複雑な出力や微妙なニュアンスが求められる場合に、非常に効果的な手法です。

教師ありファインチューニングのステップと同様に、このステップでもバイアスの軽減や倫理的な懸念に対する対応が可能です。

4)PPOによる強化学習

PPO(Proximal Policy Optimization:近接方策最適化)は、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングにおいて非常に効果的な強化学習アルゴリズムです。

この手法では、モデルが環境との相互作用を通じて試行錯誤を繰り返しながら、報酬信号を最大化するような出力を学習していきます。

トレーニングの過程で、モデルは自身の出力に対して報酬またはペナルティを受け取り、その繰り返しによって「ある状態において、将来的に得られる報酬の合計が最大となる行動方針(ポリシー)」を見出していきます。

5)レッドチーミング(Red Teaming)

レッドチーミングは、人間の評価者によるフィードバックを通じてモデルの性能を検証するステップです

この工程では、さまざまなバックグラウンドや経験を持つ人々がモデルを評価します。こうした多様な視点を取り入れることで、偏りの少ない検証が可能となり、モデルの公平性や信頼性を高めることができます。

レッドチーミングでは、モデルが現実世界の複雑なシナリオや予期しない状況、例外的なケースにおいても、正確で一貫性のある応答を返せるかどうかを重点的に確認します。この過程で得られた洞察は、モデルのさらなる改善に役立てられ、最終的には実用性が高く、目的に適したAIの構築につながります。

RLHFがもたらすメリット

人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)は、従来のAI開発で直面していたさまざまな課題を克服する手法として注目されており、以下のような重要なメリットをもたらします。

安全性・倫理性の向上

人間が直接フィードバックを与えることで、AIが不適切、有害、誤解を招くコンテンツを生成するリスクを低減できます。より信頼性の高いAIを構築するうえで重要になるメリットです。

ハルシネーションの抑制

AIが事実と異なる情報を生成してしまう現象、AIのハルシネーションは大きな課題です。RLHFによって、モデルはより事実に基づいた信頼性の高い出力を学習し、ハルシネーションの抑制に貢献します。

より自然で人間らしい対話の実現

人間の会話に見られるニュアンスや文脈をより正確に理解し、自然で共感的な出力を生成する能力が向上します。ユーザーエクスペリエンスの向上などにつながります。

意図を正確に汲み取る精度の向上

曖昧な表現や複雑な指示に対しても、RLHFによってモデルは人間の意図をより正確に理解し、的確な応答を返すことができるようになります。カスタマーサポートや自動応答システム、コンテンツ生成の分野で特に効果を発揮します。

汎用性・適応性の向上

RLHFは、特定のタスクにとどまらず、さまざまな状況や分野に柔軟に対応できるAIモデルの構築を可能にします。ビジネスから教育、医療まで幅広い応用が期待されます。

RLHFを導入したOpenAIの事例

OpenAIは、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)を導入することで、言語モデルを大きく進化させた代表的な事例です。

OpenAIの言語モデルは、大規模なインターネット上のテキストを学習して構築されたGPTモデルを基盤としています。しかし、そのままでは不適切な発言や一貫性のない応答が見られることもありました。そこで導入されたのがRLHFです。

GPT-3の課題

GPT-3は、インターネット上の大規模なテキストデータを用いて「次の単語を予測する」ように訓練された言語モデルです。しかし、その性質上、ユーザーの意図に沿わない誤情報や有害な出力を生成してしまうことがありました。

RLHFの導入

この課題を解決するために、OpenAIは人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)を導入。ユーザーから送信されたプロンプトに対し、人間のラベラーが望ましい出力例を提示し、複数のモデル出力をランク付け、その評価データを用いてGPT-3をファインチューニングを実施しました。

InstructGPT

InstructGPTは、従来のGPT-3よりもユーザーの指示に従う能力に優れ、ハルシネーションも減少し、有害な出力の発生率が低下。特に注目すべき点は、パラメータ数が100分の1以下にもかかわらず、GPT-3よりも人間のラベラーに好まれる出力を生成できる点です。また、学術的なNLPベンチマークにおいても、性能を損なうことなく、改善が達成されています。

参考:https://openai.com/index/instruction-following/

RLHFに関するよくある質問

RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)について、よくある質問をいくつか紹介します。

RLHFは何の略ですか?

RLHFは、「Reinforcement Learning from Human Feedback」の略で、日本語では「人間のフィードバックによる強化学習」と訳されます。

強化学習とRLHFの違いは何ですか?

従来の強化学習(Reinforcement Learning)は、エージェントが環境と相互作用しながら、自律的な試行錯誤を通じて報酬を最大化する最適な行動戦略を学習する仕組みです。しかし、現実のタスクでは、「どのような出力が最適か」を定量的に定義することが困難なケースも多く存在します。こうした課題に対応するために導入されたのが、人間の評価(フィードバック)を活用する強化学習の手法、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)です。

RLHFは、従来の強化学習に人間の主観的な評価(フィードバック)を組み合わせることにより、言語モデルが高品質かつ多様性のある出力を生成するように導きます。さらに、多様なデータセットを使用することで、さまざまな視点や文脈に対応することができ、より汎用性の高い言語モデルを構築することが可能になります。

RLHFのメリットは何ですか?

RLHFがAIモデルに与える主なメリットとして次のようなものがあります。

  • 安全性・倫理性の向上
  • ハルシネーションの抑制
  • より自然で人間らしい対話の実現
  • 意図を正確に汲み取る精度の向上
  • 汎用性・適応性の向上

AppenのAIデータサービス

Appenは290以上の言語に対応する100万人以上のグローバル人材と、28年以上の経験を持つエキスパートを擁し、お客様のニーズに応じたAIデータサービスを提供してます。

専門性

AppenはAIデータの分野で28年以上の豊富な経験を有し、様々な要件やプロジェクトを成功させてきました。

大規模データ

Appenには100万人以上の専門知識を持ったグローバル人材が所属しており、プロジェクトの拡張に柔軟に対応できます。

高品質データ

Appenには数多くのプロジェクトに高品質データを提供してきた実績があります。

柔軟性

Appenはお客様のニーズやご要望に合ったソリューションを提供します。Appenは大規模言語開発プラットフォームの提供、AIデータサービスのリーディングカンパニーです。

革新性

Appenはリサーチとテクノロジーへの継続的な投資により、業界最先端のデータサービスを実現しています。


人間のフィードバックによる強化学習に関するご相談はお気軽にお問い合わせください!