ヘルスケア医療の現場を変えるAI(人工知能)活用事例

11/04/2025

はじめに

近年、人工知能(AI)はヘルスケア医療分野において急速に活用が進んでいます。

膨大な医療データの解析、専門知識を活かした診断・治療支援、患者対応の効率化など、AI技術は医療の質向上と負担軽減に大きく寄与しています。

本記事では、最新のAI技術を活用したヘルスケア医療現場の具体的な事例を7つ紹介します。

画像診断・治療支援

病理画像や医療画像の解析において、ディープラーニングを用いた知能分析システムが注目されています。これらのシステムは、病変領域の自動注釈や、異常部分の正確な位置特定を可能にします。さらに、検査結果をもとに構造化された診断レポートを自動生成し、医師の負担を大幅に軽減します。

例えば、がん診断の病理画像解析では、AIが病理組織の異常を検出し、ヒトの専門医よりも早く精度高く病変を特定できる事例が報告されています。これにより、診断の迅速化・正確化が期待されています。

胸部X線写真から肺機能を高精度で推定するAIモデルの事例(大阪公立大学)

大阪公立大学大学院医学研究科の研究グループは、胸部X線写真から肺機能を高精度で推定できるAIモデルを開発。

国内5施設の14万枚超の胸部X線写真を用いてディープラーニングモデルを構築。訓練・検証には3施設、外部テストには別の2施設のデータを使用しました。肺機能検査の代表的指標(努力性肺活量・1秒量)と比較した結果、非常に高い精度を確認。

この成果は、検査が困難な患者や感染症流行時の代替手段として有望で、胸部X線だけで肺機能も推定できるため検査効率の向上が期待されます。

参考:https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-12225.html

問診・トリアージ支援

AIを活用した対話システムは、医療知識グラフを用いて多段階の問診シナリオをシミュレートします。患者の主訴をもとに診断のヒントを提示し、オンライン上で医師の修正やフィードバックも受けられます。

これにより、軽度の症状の初期相談や病院受診前のトリアージ(緊急度判定)がスムーズに行われ、医療機関の負担軽減や患者の利便性向上につながっています。

問診・トリアージを効率化する「ユビーAI問診」の事例

静岡県の安田内科小児科医院は、ユビーAI問診を導入し、来院前に患者がWEBで事前問診を行う仕組みを構築。これにより、発熱外来スタッフの負担軽減と院内感染リスクの大幅低減を実現。

事前問診でコロナ疑い患者を特定し、院内に入れず屋外診療で対応。これまでに複数名の陽性者を早期発見。

紙の問診票が不要になり、スタッフの非接触オペレーションが可能に。

業務効率化や感染対策に大きく貢献。

ホームページや院内案内でWEB問診の利用を徹底周知することで、患者にも浸透。今後は発熱外来以外にも活用を広げる予定。

参考:https://intro.dr-ubie.com/cases/v2Iq8_8Z

健康科学の普及支援

健康管理や服薬に関する患者からの質問に対し、権威ある医療知識ベースを統合したAIがわかりやすい回答を生成します。さらに、参照元を自動注釈し、信頼性を担保します。

このような質問応答システムは、患者が自己判断で誤った行動をとるリスクを低減し、正しい健康知識の普及に貢献しています。

ハーバード発のAIチャットボット「Buoy Health」の事例

2014年にハーバード・メディカル・スクールを発端として、医師が患者へ行う問診を模した対話形式で健康状態を評価するAI症状チェッカーを開発し、現在はウェブおよびアプリで展開されています。

18,000以上の臨床論文データおよび約500万人分の実臨床情報を活用し、約1,700疾患に対応して推論を行う高度なAIエンジンを搭載しています

参考:https://www.buoyhealth.com/

薬剤相談の効率化

高精度のOCR(光学文字認識)技術を用いて、薬剤情報の記載された文書から効能や用量などの重要項目を抽出します。抽出情報は薬剤知識ベースと照合され、誤情報の検出や安全な服薬支援に役立ちます。

この技術により、薬剤師の業務効率が向上するとともに、患者の服薬ミス防止にも寄与しています。

薬剤師の業務効率化「AI-PHARMA」の事例

AI-PHARMAは、日本の薬剤師向けに設計された医薬品情報管理共有プラットフォームで、医薬品Q&Aデータや知見をAIで整理・検索・共有できる「薬剤師の知恵袋」的なサービスです。

薬剤師は文章で疑問を書き込むだけで、AIが内容を理解し、自施設・他施設の文脈に基づく最適な回答や過去事例を自動抽出します。

参考:https://aipharma.jp/

医学論文の解析支援

膨大な医療研究論文の解析にはAIの力が不可欠です。AIは研究の結論や実験手法などのコア情報を抽出し、数式や図表も自動で認識・書き起こします。これにより、論文の内容を構造化した知識カードとして整理可能です。

研究者は短時間で最新の研究動向を把握でき、臨床応用への橋渡しが加速します。

小野薬品とアイエクセスの共同開発によるMaTCHシステムの事例

小野薬品とアイエクセスは、PubMedに収載されている3500万件を超える医学論文を学習させたAI自然言語処理アルゴリズムを搭載した「MaTCHシステム」を共同開発。このシステムは、重要トピックの抽出、重要度のランク付け、重要トピック間の関連性等を時系列で可視化することができ、これまで人による読み取りでは困難であった膨大な医学論文全体の重要トピックを俯瞰的に捉えることが可能。

参考:https://www.ono-pharma.com/ja/news/20230718.html

検査・報告書の多角的分析

病理報告や検査結果、画像診断など複数の異なる形式の医療データをAIが統合的に解析。異常値を自動注釈し、臨床判断に役立つ参考情報を生成します。

マルチモーダル解析により、見落としを防ぎつつ総合的な診断精度の向上が期待されています。

医療系統合AIプラットフォーム「IBM Watson Health」の事例

IBM Watson Healthは、検査データや病理報告、画像診断など、多様な医療情報を統合して解析できるAIプラットフォームです。自然言語処理(NLP)技術を活用し、診療記録や報告書から重要な異常所見を抽出することが可能。また、診療ガイドラインに基づく臨床判断のサポート機能も備えています。

米国の複数の医療機関で導入されており、特にがん診断や治療計画の支援に活用されています。

参考:https://www.ibm.com/jp-ja/topics/healthcare-analytics

臨床意思決定支援システム

リアルワールドデータ(RWD)を基にした意思決定支援システムは、複数の診断プランを多角的に評価します。論理的欠陥やエビデンス不足を自動的に注釈し、医師が最適な治療方針を選択できるよう支援します。

これにより、診断や治療の質が向上し、患者の安全性と満足度の向上に寄与しています。

IBM Watson for Oncologyを導入したフロリダ州の病院の事例

フロリダ州のJupiter Medical Centerは、米国の地域病院として初めて、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)と共同で開発されたWatson for Oncologyを導入。

Watson for Oncologyは、がんの診断と治療に関する膨大な医学文献を解析し、個々の患者に最適な治療法を提案することで、医師の意思決定を支援しています。

参考:https://uk.newsroom.ibm.com/2017-02-01-Jupiter-Medical-Center-Implements-Revolutionary-Watson-for-Oncology-to-Help-Oncologists-Make-Data-Driven-Cancer-Treatment-Decisions

まとめ

医療分野におけるAIの進展は目覚ましく、多くの場面で医療の質と効率化に大きく貢献しています。

今後もAI技術は発展を続け、より多くの患者が恩恵を受けることが期待されます。一方で、倫理的配慮や正確性の担保も重要な課題として残っており、医療従事者とAI開発者の協働が不可欠です。

医療現場でのAI活用は、単なる技術導入に留まらず、人間中心の医療を支える新たなパートナーとして定着していくでしょう。


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